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あだこ

あだこ

山本 周五郎

「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页

青空文庫

「どうして――」と彼が訊いた、「どうしてこの家に見当をつけたんだ」

「――聞いたんです」とあだこは云いにくそうに答えた、「あたしの前を、どこかの小僧さんが、もう一人の小さい小僧さんを伴れて歩いていました、御用聞きにゆくお屋敷を教えていたのでしょう、それがこのお屋敷の前へ来ると、ここはだめだって教えてるんです」

「ずいぶんいいことを云ったろうな」

「いろいろなことを聞きました、そして奉公人が誰もいない、御主人が一人きりだというので、ここよりほかにはないときめてしまったんです」

半三郎は黙って頷いた。やさしく、まじめな顔で頷き、静かにあだこを見た。

「これで全部です」とあだこは云った。

半三郎は彼女を見まもっていて、それから微笑しながら云った、「顔を洗っておいで、また眼のまわりが斑になってる」

あだこはひゃあと声をあげ、両手で顔を掩った。

「男除けだな」と彼は含み笑いをした、「なにを塗っていたんだ」

「釜戸の煤です」

「おれも信用できなかったのか」

「そんなことはありません」とあだこは力をこめて云った、「三度めの料理茶屋で思いついてから癖になって、こうしないと気が安まらなくなってしまったんです」