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あだこ
あだこ
山本 周五郎
「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页
彼は眼をつむったまま微笑した。
あの日、庭の枯草の茂みから、あだこがこっちへ頬笑みかけた。
あれが事の始まりだった、自分は亡びるのを待っていたし、あだこは身の置きどころに窮していた。どっちもいちばん悪い条件のときに会い、そして、あだこの生きようとする力が勝ったのだ。
「おまえが勝ったのだ、あだこ」と彼は囁き声で云った、「おれではない、もしおれが勝つとすればこれからだ」
襖がそっとあいて、あだこが覗いた。
「旦那さま」とあだこは当惑したように呼びかけた、「ちょっといらしって下さい、あたしどうしていいかわかりませんわ、お客さま方はあんなことでなぜ、あんなにばか笑いをなさるのでしょうか」
「はいっておいで」と彼は起き直りながら云った、「おまえに話すことがあるんだ」
「でもお客さま方が」
「いいよ」と彼は片手を伸ばした、「あの笑いはなかなか止らない、おれも初めのときはそうだったろう」
あだこは忍び笑いをした、「お居間へ逃げていらっしゃいました」
「かれらにも笑わしておこう」と彼は片手を伸ばしたままで云った。
「ここへ来てお坐り、二人だけで話すことがあるんだ、おいで」