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つばくろ

つばくろ

山本 周五郎

「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页

青空文庫

「――あの方に、松葉屋の飴をさしあげました、それから、米屋のお饅頭も……」

なにを云いだすのかと思ったが、それがおいちの告白の最初の言葉であった。

「――あの方は御三男で、そのうえ、ほかの御兄弟とは、お母様が違うのです、……あの方はみなさんとは別に育てられ、下男たちと同じ長屋に、独りで寝起きしていらっしゃいました、……あの方はいつも独りで、淋しそうに、悲しそうに、……窓から外を眺めておいででした」

森三之助が相右衛門の妾腹の子だということは、おいちは森家の下婢から聞いた。そのころ十三になっていたおいちは、まえに記したような事情で、森家へもしばしば頼まれ物でゆくうち、三之助の不幸な身の上を知ったのである。……おいちは彼が哀れで堪らなかった。彼は小遣などは貰えないで、自分に宛がわれたその長屋のひと間で、なにかの写し物をしていたり、ぼんやりと窓から外を眺めたりしていた。

「あの方がどんなに淋しく、悲しい気持でいらっしゃるか、わたくしにはよくわかりました、わたくしも貧しく、苦しい辛いくらしをしていましたから、……あの方がどんなに不幸でいらっしゃるか、わたくしには自分のことのようにわかりましたの」