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つばくろ
つばくろ
山本 周五郎
「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页
不幸を経験した者でなければ、不幸の本当の味はわからない。おいちは彼の上に自分の哀れさをみた、慰さめてやらずにはいられなくなった。そして或日、おいちは乏しい銭で松葉屋の飴を買って、彼に遣った。
「あの方は初めてのときは、そんな物は要らないと云って、怒ったように脇へ向いてしまいました、……あの方はからかわれたと思ったそうですの、……あの方が十九、わたくしが十三のときでございました」
三度まで彼は受取らなかった。三度めにおいちは泣いて帰った、そして四度めに、初めて三之助はおいちの贈物を取った。
――これではあべこべだね、でも貰うよ、有難う。
彼はそう云って、泣くような笑い顔をした。そしてこっちの気持がわかったのだろう、それからはいつもおいちの持ってゆく物を喜んで受取った。こちらの境遇が境遇なので、むろんそういつもというわけにはいかなかった。だがおいちは身を詰めるようにして小さい智恵を絞って、できるだけ彼を慰さめることに努めた。城下で名の高い米屋の饅頭なども、幾たびか持っていって彼を喜こばせた。
――美味かったよ、話には聞いていたが食べるのは初めてだ、やっぱり評判だけのことはあるね、有難う。