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つばくろ

つばくろ

山本 周五郎

「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页

青空文庫

「――いそぐべからず……」

彼は夜半の雨の音を聞きながら、じっと眼をつむって呟やくのであった。

「――みんなが重い荷を負っている、境遇や性格によって差はあるが、人間はみなそれぞれなにかしら重荷を負っている、……生きてゆくということはそういうものなんだ、そして道は遠い……」

互いに援けあい力を貸しあってゆかなければならない、互いの劬わりと助力で、少しでも荷を軽くしあって苦しみや悲しみを分けあってゆかなければならない。自分の荷を軽くすることは、それだけ他人の荷を重くすることになるだろう。道は遠く、生きることは苦しい、自分だけの苦しみや悲しみに溺れていてはならない。高雄はこう思うようになり、おいちを失なった苦痛から、ごく徐々にではあるが、少しずつ立直ってゆけるように思えた。

九月になってまもなく、吉良節太郎から夕食に招かれた。

にわかに秋めいた風の渡る宵で、吉良の庭はもう自慢の白萩もさかりが過ぎ、芒の穂がいっせいに立っていた。高雄のほかに宮田慎吾という相客があり、みなれない娘が吉良の妻女といっしょに給仕をした。宮田は吉良の役所の同僚だそうで、みなれない娘はその妹であり、名を雪乃、年は二十になると紹介された。