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つばくろ
つばくろ
山本 周五郎
「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页
などと高雄のところへ突然やって来て云うことがあった。彼が登城するとき、玄関へ送って出ると、
「たあたま、ごちゅびよよちゅう」
と云う、春の頃はごちびよよよよだった。御首尾よろしゅう。この家中の定った挨拶であるが、舌が少しずつまわり始めたのだろう。勝江と脇玄関で話すのを聞いても、
「あのちばめ、おばたんちばめだね」
などとかなりはっきり云うようになった。
「あれだいたんのよ、だいたんのちばめね、こよぶの、こよぶのよ」
「あら、燕がころぶの、大さん」
「うん、こよぶの、ほんとよ、こよんで頭いたいいたいって、ここぶっちゅけて」
或日こんな問答も聞えた。
「大さん、あれが燕のお母さまよ」
不用意に云ったものだろう、ふっと声が絶えた、それから大助が怒ったように云った。
「ちばめ、かあかん、ないよ」
秋にかかるじぶん、高雄はしきりに家康の言葉をそっと呟やくことが多くなった。
――人の一生は重荷を負うて遠き道をゆくが如し、いそぐべからず。
少年時代に鵜呑みに覚えたのだが、いま口にしてみると、深い慰さめを感じることができた。森三之助も、おいちも、重い苦しい荷を背負っている、小さい大助でさえ、すでに心の中で重荷を負っているのだ。