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つばくろ

つばくろ

山本 周五郎

「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页

青空文庫

大助はびっくりするほど肉がこけ、皮膚は死んだような色になり、薄眼をあけて、小さく喘ぎながら、絶えず頭をぐらぐらと左右に揺っていた。勝江もゆうべから眠っていないので、自分が代るからと云って、寝にゆかせ、彼は一人で子供の枕元に坐った。

「ちばめよ、たあたま……ちばめのおちよ」

大助は昨夜から頻りに同じうわ言を云った。

「痛い痛いって、だいたんの、ちばめ、ね、こよんで痛いって、ほんとよ、……ねえ、たあたま、ちばめ、どこへもいかない、ね、……ちばめ、いっちゃ、いや、だいたんのちばめ、いっちゃいやよ、……いやよ」

高雄は歯をくいしばった。

――重荷を負うて、遠き道を……。

彼は眼をつむって、大助死ぬな、と心のなかで叫んだ。生きて呉れ、生きて呉れ、闘かうんだ、死ぬな、石に齧りついても生きるんだ、苦しいだろうが頑張れ、……哀願するように、こう呼びかけていると、うしろで耐えかねたように噎びあげる声がした。

「お願いでございます、旦那さま、爺が一生のお願いでございます」

松助の声であった。高雄はそちらへ背を向けたままで、囁やくような声で云った。

「おまえが聞いていたら、わかるだろう、……大助は、うわ言にも、母の名を呼ばない、あれが出ていった日から、いちども母のことは口にしないのだ、……大助は、この小さな、幼ない心で、母を忘れよ