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つばくろ
つばくろ
山本 周五郎
「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页
そのときは大助も危うく峠を越して、これなら命はとりとめるだろうと医師も云い、高雄はようやく息をついたところだった。
「坊やがそんな病気になるのも母親がいないためだ、どうしたって頼んだ者ではだめなんだ」吉良はたいそう乗り気らしくこう云った、「――子供のためにも貰うべきだよ、宮田では約束だけでもいいと云ってるんだ」
「――おいちが戻るかもしれないんだ」高雄はそう答えた、「――湯治は病気によかったらしい、詳しいことはいずれ話すが、……たぶん戻ることになると思う、そういうわけだから」
吉良はむっと口を噤み、睨むようにこちらの顔を見て、そしてその話しにはもう触れずに去った。
それから七八日経った或朝。大助がなにかひどくむずかっているので、高雄は登城の支度を手早くしていってみた。勝江がけんめいになだめているが、彼はべそをかいて、足をばたばたさせてなにかせがんでいた。
「燕を見るんだと仰しゃってきかないんですの、まだ起きたりなすってはいけませんのに」
「よしよし、そのくらいならいいだろう」
元気な暴れようを見て、高雄は唆られるような気持になり、夜具をはねて大助に手を伸ばした。