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みずぐるま
みずぐるま
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页
それは彼女が岩本一座にいたことを知られたくないためらしく、もし誰かに訊かれたら、「江戸から来た親類の者だ」と答えるように云われていた。
二月下旬になった或る日。――和次郎が精明館の稽古から帰って来ると、若尾が眼を輝かせながら部屋まで追って来た。
「わたくしうかがいましたわ」若尾は昂奮した声で云った、「お母さまから、すっかりうかがいましたわ、若尾はみんな知っていますわ」
「ばかに力むね、なにを聞いたんだ」
「若尾をみつけて下すったのが誰かっていうことですわ、お兄さまですってね」若尾はきらきらするような眼で和次郎を見た、「――お兄さまがわたくしを見にいらしって、それからお父さまを伴れて来て、そうして若尾をぜひ貰うようにって、熱心におせがみなすったんですってね」
「つまり私を恨むっていうわけか」
「恨むですって、若尾がですか」
「だって、あんなに泣き続けるほどいやだったんだろう」
「あらいやだ」若尾は足踏みをし、すぐに気がついて云い直した、「あらいやですわ、わたくし泣いたりなんかしはしませんわ、もしか泣いたとすれば、いやだからじゃなく、ただ泣いただけですわ」
「へえ、ただ泣いただけですかね」