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みずぐるま
みずぐるま
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页
と思ったあまり若尾はつい筆が走り、自分ではまったく気づかずに大胆極まることを書いてしまったらしい。年が明けて、明和八年になった二月のことであるが、和次郎から来た四度めの手紙に、そのことがたしなめてあった。
――若尾のいうとおり、河内の家名は若尾に子供が生れたら継がせればよい、それはそのとおりであるが、いまからそんなことを考える必要もないし、また若尾の考えることでもない、「そのとき」が来たら私がいいようにやるから、若尾はただ自分のことに出精すべきである。
文面はそういう意味であったが、「若尾がこんなことをいって来ようとは予想もしなかった、私はすっかり驚かされてしまった」と書き添えてあり、若尾は恥ずかしさのあまり躯じゅうが火のように熱くなった。
「あたし、そんな手紙を書いたかしら」彼女は自分に云った、「――そうだわ、書いたような気がするわ、きっと書いてしまったんだわ、いつも書くときには夢中になってしまうから、心にあることが、つい筆に出たんだわ、どうしましょう」
書いたという意識はまったくなかった。むろんそのことは考えていた。弘田の人たちは河内の家名再興ということを心配している。