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ノア

ノア

久生 十蘭

「富士」1950(昭和25)年2月号~4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,285 字 · 153 页

青空文庫

高桑中尉は船室の板壁へおしつけられ、蒼白になってクドクドと事情を説明し、それで誤解だといわれて発揚状態はいくらか鎮ったが、兵隊たちは疑り深くなって一人も下艙へ降りず、甲板に坐りこんで朝まで動かなかった。

翌朝、石黒少佐は会議を開いて懲罰の審議をし、大迫少尉に調査を命じたが、なにしろ闇夜のことで誰がどうしたともわからず、強硬にでると、再度激発させる恐れがあるので、丸山一等兵他二名に施錠し、反乱は不問に附することになった。ところで、立山丸の浸水は午前八時現在で三メートルを越え、船腹の亀裂は船尾から船首まで開裂してものすごい形相になり、強い波に一撃されたら船体が両断してしまうだろうという状況で、一刻も早く人員を離船させなければならぬ危急に迫られた。

高桑中尉が急々に配乗人員の編成にかかったが、比較的安全な四隻のボートと二隻のヤンマーは部隊長以下の幹部ともとの石黒隊二百四十八名に割振られ、筏には幹部会議から除外されていた中田(大尉)、岡(中尉)、榊原(少尉)、大矢(少尉)、古屋(軍医補)、佐藤(主計少尉)と浜田隊の百二十名が乗ることになり、かねて士官室から孤立していた岩永海軍少尉が指揮官に指示された。