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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

廣介の声にふと見ると、森の入口の一本の杉の木の根許に、誰が乗り捨てたのか、毛並艶やかな二匹の驢馬がつながれて、しきりに草を噛んでいます。

「私達はこの森へ這入らねばなりませんの」

「オオ、そうだとも。何も心配することはない。この驢馬が安全に私達を案内して呉れるのだよ」

そして、二人はおもちゃの様な驢馬の背に跨って、奥底の知れぬ、闇の森へと進み入るのでありました。

森の中では、幾層にも木の葉が重り合って、空を見ることは出来ませんけれど、でも、全く闇というではなく、黄昏時のほのかなる微光が、もやの様に立籠めて、行手が見えぬ程ではありません。巨木の幹は大伽藍の円柱の様に立並び、その柱頭から柱頭を渡って、青葉のアーチが連り、足の下には、絨毯の代りに杉の落葉が分厚に散り敷いて居ります。森の中のたたずまいは、丁度名ある大寺院の礼拝堂に似て、その幾層倍も、神秘に、幽玄に、物凄く感じられるのです。

それにしても、この森の下道の調和と均整は、到底天然の企て及ぶ所ではありません。例えば、広漠たる大森林が、凡て杉の巨木のみで出来ていて、その外には一本の雑木も、一茎の雑草も見当らぬ点、樹木の間隔配置に人知れぬ注意が行届いて、異様の美を醸し出している点、その下を通ずる細道の曲線が、世にも不思議なうねりを見せて、通る者の心に一種異様