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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
の感情を抱かせる点などは、明かに自然をしのぐ作者の創意を語っています。恐らくは、彼の木の葉のアーチの快い均整にも、落葉の床の踏み心地にも、凡て注意深い人工が加味されているのではないでしょうか。
主人を乗せた二匹の驢馬は、落葉の深さに少しの跫音も立てないで、静かに木の下闇をたどります。獣も鳥も鳴かず、死の様な幽寂が森全体を占めています。が、やがて、奥深く進むにつれて、その静けさを一層引立てる為ででもある様に、見えぬ頭上の梢のあたりから、梢に当たる風の音ともまがう程の鈍い音響が、例えばパイプオルガンの響きに似た、奇異な音楽が、幽玄の曲調を以て、おどろおどろと聞え始めます。
二人の卑小なる人間は、驢馬の背の上で、頭を垂れて一語をも語りません。千代子はふと顔を上げて口を動かし相にしましたが、そのまま言葉を発しないでうなだれました。無心の驢馬は黙々として進みます。
又暫く行くと、森の様子が少しずつ変って来ることに気づきます。今まで一様にほの暗かった森の中に、どこからか銀色の光がさし始めたのです。落葉がチカチカと光り、見る限りの巨木の幹が、半面丈けまぶしく照らし出されています。