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さんじゅうにこく
三十二刻
山本 周五郎
「国の華」1940(昭和15)年9~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,273 字 · 31 页
もしそれが二倍の広さであったら、恐らく防戦は困難なものになったであろう。
母屋の裏手へ廻ると、宇女が小者たちを指図しながら何事かしていた……図書が食事にかかると共に、彼女はどこかへ去っていたのである。そっと近寄ってみると、そこには夥しい蓆が積んであり、それを水に浸している様子であった。……図書はしばらく見守っていたが、なんのためにそのような事をするのか見当がつかず、そのまま書院へと戻った。
その夜はついに敵の攻撃はなかった。
図書は家士たちを交代で眠らせ、自分も居間へ入って横になった。勝つべき戦ではない。例えば勝ったとしても命はないものと定っている。見苦しい死にざまさえしなければよいという考えが、横になるとすぐ体も心も伸び伸びとさせた。
宇女はそれから更に半刻ほども姿を見せなかった。屋根の上へ誰か登った様子と、それを指揮する彼女の声が二三度聞えた。
――なにをしているのだ。
そう思う気持が、図書の考えを再び宇女の方へ呼戻した。そして主馬が初めて彼女の話を持出した時の、大きな失望と怒りとが胸へ甦えってきた。
図書にとって、主馬は大事な一粒種というだけでなく、自分のすべての希望を賭けた自慢の息子であった。