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さんじゅうにこく
三十二刻
山本 周五郎
「国の華」1940(昭和15)年9~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,273 字 · 31 页
……急戦を不利とみて、持久的に疲れるのを待とうとするらしい。またこのあいだに、新しい武器を調達していたことも、後になって分った。
午になり、夜が来た。
同じような状態である。時に小人数で塀際まで寄せてくるがひと矢当てるとすぐ退去ってしまう。そしてまた別の方面から同じ程度の攻撃を仕掛けてくる。明らかに奔命に疲らせる策である。開門して一戦を促す矢文が何本も射込まれたし、斬って出ないのを卑怯だと罵る声も聞えた……しかし味方の戦士は敵の四分の一に過ぎない。狭い街中へこの対数で出れば、昨夜の例とは逆に、待構えている敵の餌食となるだけである。
――あの火薬さえあったら。
図書は又してもそれを思った。
山脇勢が再び総攻めを開始したのは、更にその翌日の夕頃からであった……敵は疋田邸の正面にある民家の屋上に鉄砲を伏せていた。むろん邸内ではそんな事は想像もしなかった。三年以前から秋田藩では火薬の私蔵を禁じてあったので、疋田家が火薬庫を押えている限り鉄砲は使えないのである。しかし山脇長門は二日のあいだにそれを調達してきたのであった。
戦は日没と共に始まった。
書院の床几に掛けていた図書は、寄手の攻撃が今度こそ必死を期したものだということに気付いた。