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さんごくし

三国志(八)

吉川 英治

吉川英治『三国志(八)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 195,604 字 · 391 页

青空文庫

うしろには、関興の一軍の迫るあり、前にはこの大軍であった。かつは、敵にとらわれた母の姿を見、姜維は胸ふさがって、馬を跳びおりるや否や大地にひれ伏し、すべて天意にまかせた。

すると孔明は、すぐ車をおりて、姜維の手をとり、姜維の母の側へつれて来た。そして母子を前にして彼は云った。

「自分が隆中の草廬を出てからというもの、久しい間、つねに天下の賢才を心のうちでさがしていた。それはいささか悟り得た我が兵法のすべてを、誰かに伝えておきたいと思う希いの上からであった。――しかるにいま御身に会い、孔明の日頃の願いが足りたような気がされる。以後、わが側にいて、蜀にその忠勇を捧げないか。さすれば孔明もまた報ゆるに、自分の蘊蓄を傾けて、御身に授け与えるであろう」

母子は恩に感じて泣きぬれた。すなわち姜維は、この日以来、孔明に師事し、身を蜀に置くことになったのである。

伴って、本陣へ帰ると、孔明はあらためて姜維を招き、礼を厚うして訊ねた。

「天水、上※の二城を取るの法は如何に」

姜維は答えていう。

「一本の矢を射れば足りましょう」

孔明はにこと笑って、すぐかたわらの矢を取って渡した。