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さんごくし

三国志(八)

吉川 英治

吉川英治『三国志(八)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 195,604 字 · 391 页

青空文庫

六

「昨夜はこれへ来て、旧主へ弓をひき、今朝はこれへ来て、口舌の毒策を試むるか。あの曲者を射ろ」

呶号して、あたりの弓手を励ました。

「こは抑、いかなるわけか?」

と、呆れ惑いながら、姜維は眼に涙をたたえ、ぜひなく乱箭を避けて、長安のほうへ落ちのびて行った。

六

兵なく、城なく、今は巣のない鳥にも似ている姜維だった。ただ一人、長安をさして奔ること数十里、行くての先に、たちまち数千の軍馬を布いて、道を阻めるものがあった。蜀の大将、関興の軍勢である。

「ややや。もうこの方面へも敵が迫ったか」

身体は疲れ果て、心は悲愁。しかもただ一騎でもあるし、戦う術もなく、馬を回してべつな道へ急ぐと、またまた、一林の茂りをひらいて、

「来れるや姜維。何処へ行こうとするか」

口々に云い囃し、鼓声をそろえて、彼をつつんだ。

見れば、旗列を割って、一輛の四輪車が此方へ進んでくる。車上の綸巾鶴の人も、羽扇をあげて、しきりに呼びかけた。

「姜維姜維。なぜこころよく降参してしまわぬか。死は易し、生は難し、ここまで誠を尽せば、汝の武門には辱はあるまい」

驚くべし、孔明のうしろには、いつのまにか、冀城にのこしていた彼の母が、輿に載せられて、大勢の大将に守られている。