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さんごくし

三国志(八)

吉川 英治

吉川英治『三国志(八)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志。

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 195,604 字 · 391 页

青空文庫

剣閣の嶮に拠って、鍾会と対峙していた姜維も、成都の開城を伝え聞き、また勅命に接して、魏軍に屈伏するのやむなきにいたった。

「武器を抛棄せよ」

と姜維に命ぜられて、魏の前に降兵として出ることになった彼の部下は、このとき皆、

「無念」

と、剣を抜いて、石を斫ったということである。

これを見ても、蜀人の意気戦志は、まだ必ずしも地に墜ちていたとはいえない。いやむしろ、孔明なき後の三十年も、年々、進攻的な気概を外敵にしめし、「攻むるは守るなり」の積極策を持ちつづけて来た気力にはむしろ愕かれるものがある。

とはいえ、姜維らのこの意気は愛すべしだが、ために、費の言なども多くは耳をかさず、求めて欠陥を生じ、急いで国家を危殆へ早めて来たこともまた、否み得ない作用であったというしかない。

費は、存生中にも、姜維にむかって、しみじみ、こういっていた事実がある。

「自分などは、どう贔眉目に見ても、とうてい、故丞相に及ばないこと甚だ遠い者だ。――その丞相ですらなお中夏を定め得なかったことを思うと、況んや、われら如きにおいてをやと、痛感しないわけにはいかない。だからしばらくはよく内を治め、社稷を守り、令を正し、国を富ましめるのが、われらのなし得る限度ではあるまいか。