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ぼうれいホテル

亡霊ホテル

山本 周五郎

「新少年」1937(昭和12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,706 字 · 20 页

青空文庫

精しい事情は存じませんですが……お部屋は血でいっぱい、寝台から這いだした夫人が、扉の握を掴んだまま血みどろになって、さんばら髪で死んでいたその凄さ、――今思い出しても慄と……」

給仕はぶるっと身を震わした。

「それ以来、あの部屋へお客様をお泊め致しますと、定って変な事がございますので、――今では使わない事になっているのです。然しどうか……この話は決して御他言下さいませぬように、なにしろこんな事が広まっては客商売のことですから」

「その点は安心し給え、僕なら決して誰にも饒舌りはしないから」

「有難う存じます。若しお望みでしたら早速お部屋を変えましょうか」

「否ここで宜いよ」

「然し若し貴方様に間違いでもありましては」

「まあそれ程の事もなかろう」

給仕は会釈して出て行った。

厭な話である、ゆうべ慥に聞いた女の呻声や、あの長い紙を静かに静かに引裂くような物音が、まざまざと耳に甦って来る。――扉の握を掴んだまま血みどろになって死んでいたという、若い夫人の姿も、どうやら眼にちらつくような気がする。

「ちぇ! 厭な話を聞いた」

舌打をしながらがぶりと珈琲を飲んで、煙草に火を点けようとした時、卓上電話がジリジリと鳴りだした。