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ぼうれいホテル

亡霊ホテル

山本 周五郎

「新少年」1937(昭和12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,706 字 · 20 页

青空文庫

学校の退けたのが午後四時、それから片町の友達を訪ねたところが、無理に引留められて、六本木の近くにある「山手ホテル」へ着いたのは午後七時を過ぎた頃だった。――受付で部屋の番号を訊くと、若い給仕がいて三階の六号だと教えて呉れた。

「御案内を致しましょう」

と云うのを断って(不意に行って驚かせてあげよう――と思ったのである)とんとんと階段を登り、右の翼屋の方へ曲って右側の扉、六号と書いてあるのを見て、そっと握を廻してみた、鍵はかけてなかった。

――いるわ。

と思って、首を竦めながらそっと明け、跫音を忍ばせて入った。其処は寝室と前部屋と垂帷一枚で仕切られていて、前部屋には仕事卓子と椅子が数脚置いてある、――その卓子の側に立って、此方へ背を向けて一人の男が何かしていた。

――お兄さまだわ。

疑ってみる迄もなくそう信じたみどりは、いきなり後へ駈け寄って、

「お兄さま今晩は……」

と叫んだ。不意を打たれて相手は、

「あっ!」

と云いながら振返った。――意外にもそれは兄ではなかった。全く見知らぬ人である、みどりは吃驚して二三歩退り、「まあ、済みませんでした、あたくし……」