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ぼうれいホテル

亡霊ホテル

山本 周五郎

「新少年」1937(昭和12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,706 字 · 20 页

青空文庫

と詫びようとした時、相手の男は凄じく歯を剥出したと思うと、いきなり扉口へ飛鳥のように跳ついた。そしてスイッチの音がしたとみる刹那、部屋中の電灯がぱっと消えて四辺は真暗闇になった。――これは凡べてあっと云う間の出来事だった。

「あ、あれ!」

闇の中からみどりの悲鳴が聞え、荒々しい争いの気配がした。然しそれは直ぐに鎮まって、間もなく、――何処か部屋の隅の方から、コトンと金具を合せるような物音が聞え……それっきり森閑として人の様子もなくなって了った。

伊藤豊治青年が鹿谷博士と共に帰って来たのは、それから凡そ一時間ほど経って後のことだった。――伊藤青年は夕食前に、仙台から帰るという博士の電報を受取ったので上野駅まで迎えに行って来たのである。したがって留守中にそんな事件のあった事などは知る由もない。

「君の部屋は何号だね」

「翼屋の六号です」

「ははあ、――ではゆうべ何かあったろう」

博士は眼をしかめながら訊いた。

「御存じなんですか、先生」

「うん、僕も初めあの部屋へ入ったよ、どうやら一番静かそうだから望んだのだがね、前の部屋に亡霊が出て少し怖いから引移った訳さ」