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にんげんせいかつのむじゅん

人間生活の矛盾

丘 浅次郎

「中央公論」1926(大正15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,798 字 · 36 页

青空文庫

私はこの問題を解くために、いろいろと考えた結果、すでに二十年ほど前に一つの学説を思い付いた。その要点を掻摘んでいえば、次のごとくである。人間は原始時代には皆、今日の野蛮人や多くの猿類のごとくに小さな団体を造って相戦うていた。優った団体が勝って栄え、劣った団体が敗けて亡びることが絶えず繰り返されている間には、自然淘汰の結果として、社会本能や階級本能のような人間の団体生活に必要な本能が次第に発達した。ここに社会本能というのは、生れながらに社会奉仕をせずにいられぬという本能で、階級本能というのは生れながらに目上の者を崇めずにはいられぬという本能である。これまで団体的精神とか服従本能とか称えてきたが、誤解を招く虞があることに心付いたから右のごとくに名を改める。さて、団体間の自然淘汰がつづく限りは、これらの本能はどこまでも発達するはずであったところ、人間だけは他の動物と違うて、何ごとをするにも道具を用ゆるために、人間の団体はその後、次第に大きくなり、終にあまり大きくなり過ぎて、団体間の自然淘汰が中絶した。その結果として、以上の本能は次第に退化するを免れ得なかったが、社会本能が退化すれば人は自己本位となり、階級本能が退化すれば人は自由解放を要求する。