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にんげんせいかつのむじゅん

人間生活の矛盾

丘 浅次郎

「中央公論」1926(大正15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,798 字 · 36 页

青空文庫

後、今日では、とうてい昔の面影はなくなった。もっとも今の世の中にも階級本能のあまり退化せぬ人間はたくさんにあるゆえ、宗教家の働く範囲も未だ相応に広くはあるが、この本能は一代ごとに少しずつ確かに退化して行くから、今後はけっして昔のごとくには働けぬに定っている。残るところは教育家であるが、これまでの成績から判断すると、社会生活を理想に近づけるために、何ほどの効果を挙げ得たやらすこぶる疑わしい。教育家が次代の人間をいかようにも注文どおりに造り得るようなことをいうのを聞いては、いささか片腹痛く感ぜぬでもないが、社会本能や階級本能の退化に基づく少年青年の悪変化を、世間では皆教育の行き届かぬ結果と解釈し、その尻をことごとく教育家のところへ持って行くのを見ては大いに同情に堪えぬこともある。教育家の今後の務めは、無意識ながら有力に働く社会本能や階級本能の退化に対し、智、情、意の意識的訓練によってその欠陥を補い繕うことであるが、それがいかなる程度まで成功するかは、今後の世の成り行きを見て初めて知ることができるであろう。(大正十四年十一月)