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ふゆがれ

冬枯れ

徳永 直

「中央公論」1934(昭和9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,850 字 · 48 页

青空文庫

そしてフッと気がつくと彼は慌てて口を開けながら――ハァ――と吐息する。それまで何時間も、何十時間も呼吸をツめていた気がしているのだった。

――君ァこの土地の草分だからな――と云ったさっきの男の言葉が、彼の焦らだった気持をつつきたてた。考えてみれば、この田圃のある町(当時村だった)を、運動のために追われてから十四五年にもなるか。その間鷲尾は実際運動から文化団体へ移っていったりしたが、抜き差しならぬ過去は、こうしてちゃンと現在へ繋がっていた。――

――東京ではいくらかボカして考えていた「ふるさと」もこうやってみると、今更ながら嘘ッ八だと沁々わかる。この野ッ原だッて小川のうねり工合や、田圃の傾斜や、河土堤一めんの木槿などに、幼少のころの懐しみと云ったものを、ボンヤリ頭においていたが、鼻ツキ合わしてみれば馬鹿げていた。鷲尾が物心地つく頃には、彼の両親は小作田さえ持たなかったし、彼はいわばこの田圃の「継子」として育ったようなものだ。小川の魚を掬っては百姓達に怒鳴りちらされ、雲雀の巣を探っては、肥びしゃくで追っかけまわされた。そんな苦々しい思い出ばかりが湧いてくる。