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ふゆがれ

冬枯れ

徳永 直

「中央公論」1934(昭和9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,850 字 · 48 页

青空文庫

弱腰をガクンと突き戻された形だった。――

自転車の男が帰ってゆくと、懐中の子を女房へ渡して、鷲尾は裏口から田圃の方へ出た。己れが忌々しいような、情ないような気持だった。

冬枯れた田圃はホンのちょッぴり麦の芽があるだけで、赫ちゃけたひどく荒廃した感じだった。橋桁の陥っこった土橋、水が涸れて河床の浮きあがった小川や、畦道は霜に崩れて、下駄の歯に絡らんでひどく歩きにくかった。

こんなとき、近頃神経衰弱のひどくなった彼の癖で、まるで大急ぎの用件でもある人のようにセカセカと歩く。小川のヘリにカサカサと音をたてているジュズ玉草の枯茎の間から、まだチッ、チッとしか鳴かない赫ちゃけた土色の若雲雀がころがるようにとびだしてきても、それに気がついていながら振り返ってみる心の余裕がないのである。

不断に上ずった、とめどない焦らだった考えを追いながら、その癖もうシンは疲れきっている感じで、この広い野ッ原のどっかに腰掛ける場所を、休憩する場所を探し歩いている気持だった。そして結局はどこにもそンな場所が見当らない。どの畦道も崩れ、河土堤のどの辺も、ちかづいてみればとげとげしく肌を剥き出し、空らッ風に曝らされている、といった工合だった。