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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

と私は辞退して、三つかゝって来た口の中一番俸給の好い九州の某中学校へ赴任することに定めた。

その途次、郷里へ寄った。毎夏帰ったのだが、今回は両親を安心させることが出来た。

「お父さんはもう学校をおやめになっても大丈夫ですよ」

と私は得意だった。

「何あに、未だ/\元気だ」

と父親は相変らず小学校長として令名を博していた。

「僕、これから毎年お金を送ります」

「それには及ばないが、無駄使いをしなさんなよ」

「四十五円ですもの、お父さんよりも豪くなってしまったのね」

と母親は俸給を価値の標準にした。親父、平常なら呶鳴りつけるのだけれど、

「結構さ」

と苦情もなかった。

「友一や」

「何ですか?」

「お前、もうソロ/\お嫁さんを貰わなければならないね」

と母親には母親らしい屈託があった。

「当分一人でいます」

「一人口は食えないが、二人口は食えるといって、一人でいるのは無駄の多いものだから、矢っ張り早い方が宜いよ」

「それもありましょうが、本当の勉強はこれからです。ここ二三年結婚なんてことは考えていません」

と、大きく出たものゝ、私は二三年この方、若い婦人を見ると、心の中で及落の評点をつける習慣になっていた。