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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

と或日申入れた。

「何だい?」

「君は老河原の家へ時々遊びに行くね?」

「行くよ」

「あんな老ぼれと何か共鳴するところがあるのかい?」

「何ってこともないが、親切にしてくれるからさ」

「僕は不親切かい?」

「そんなことはないよ」

「それじゃ何故僕のところへ来てくれない?」

「何故ってこともないけれど」

「なければ来給え」

「行こう」

「今日これから来い」

「来いは厳しいね」

と私は笑ったが、少し怖かった。柴田君は大男で、いかつい面構えをしている。近頃、多年の宿望が叶って、中学校長になった。澄まし返っているが、錚々館当時はナカ/\荒かった。

私はその日学校の帰りにお供をして行った。顔出しをしなかったのを根に持っているのかと思ったが、然うでもない。招待することに定めてあったと見えて、細君が支度をして待っていた。

「これは鹿の子といって僕の妻だ」

と柴田君が念入に紹介した。私は夕飯の御馳走になりながら鹿の子さんを八十五点とつけた。しかし他の細君では仕方がない。

「何うだい?」

「何が?」

「あれさ」

「どれ?」

と私は見上げた。長押に「比翼連理」という横額がかゝっている。墨痕未だ新しい。