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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

「さあ」

「三百円じゃ何うだい?」

「恩給を合せて、それぐらい見当をつけている」

「恩給は幾ら取れる?」

「五十円か六十円だろう」

「それじゃ恩給を五十円と見て、僕が百円出す」

「君からは貰わない」

「いや、僕の子供を頼む。雁首も好くないんだが、実は家庭教師も好くないんで困っている。君と僕とは昔からの親友だ。まさかお互に見殺しは出来まい。何うだい? 僕の子供の面倒を見てくれるか?」

「東京へ行くようになれば、無論都合をつけるよ」

「それじゃ残余の百五十円口を探せば宜いんだ。何だい? 簡単明瞭じゃないか?」

と赤羽君は独りで呑み込んでいた。

しかし間もなくこれが実現された。私は赤羽君の肝煎で神田のオリエンタル英語学校というのに百円の口を得た。恩給と家庭教師の報酬を力に、その夏辞表を出して上京した。途中、両親を拉して孝養を尽す積りで、郷里に寄ったが、子供が十人あっては矢張り思うに委せない。三四日滞在している中に、母親から愛想を尽かされてしまった。

「お母さん、皆可愛い子でしょう?」

と私は賞讃を要求した。

「可愛いことは可愛いよ」

「お母さんは子供が生れないだろうと仰有ったけれど、この通りです。