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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
と私は間もなく洗礼を受けた。反抗心で信仰に入ったのだから宜しくない。長谷川さんを論破するにはという段取も手伝っていた。以前国分を縛ろうと決心した時と同じだった。凡人は浅ましい。小さな問題から大きな問題を決定してしまう。
学級が進むにつれて、私達は将来のことを語り合った。
「河原君、君は好いな」
と或時長谷川さんが羨ましそうに言った。
「何故ですか?」
「いつも愉快そうにしている。人生の苦労ってことを知らないからさ」
「御苦労なしですか?」
「まあ然うだろうね」
「失敬だ」
「僕は始終煩悶している」
「基督を信じなければ、それが当り前ですよ」
と私は悟り澄ました積りだった。
「又伝道を始めたね」
「あなたの煩悶は人生問題ですか?」
「それもあるが、もっと差迫ったのがある」
「何ですか? 一体?」
「話そうか?」
「えゝ」
「まあ、やめにして置こう」
「いけませんよ。恋愛問題でしょう?」
「馬鹿を言っちゃいけない」
「それじゃ何ですか?」
「さあ」
と長谷川さんは周囲を見廻した。私達は運動場の木馬に凭りかゝっていた。
「僕、誰にも言いませんから」
「河原君、長いことお世話になったが、僕は近々お別れをしなければならない」