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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

僕は長谷川が女郎屋の亭主になるようなら絶交する」

と小松さんは硬論を唱えた。

「後を頼むよ」

と長谷川さんは幾度も言った。

「宜いとも」

と二人は頻りに受合った。

「男子志を立てて郷関を出ず……」

と長谷川さんが吟じ出した時、私は涙がこぼれた。

「僕達は駅まで送る。君は晩くなるといけないから、もう帰り給え。それから君はこの会に出たことを誰にも話しちゃいけない」

と北村さんが言った。

四年間の中学生活で一番身に沁みているのはこの三名とその晩の送別会である。殊に長谷川さんの苦学が成功したから印象が深い。私達は今でも落ち合うと必ずこの晩の話になる。

「河原君、それじゃ来年東京で会うぞ」

と長谷川さんは重そうな鞄を提げて料理屋を出た。

「君は早く帰れ。一切黙ってろ」

と小松さんが念を押した。長谷川さんは十一時の終列車で東京へ立った。翌日、北村さんと小松さんは学校で幾度も教員室へ呼ばれた。翌々日、二人の姿が見えないと思ったら二週間の停学処分を受けていた。長谷川さんの退校届を級監督に出して経緯を説明する序に、料亭で送別会をやったことを公明正大に告白したのだった。私は誰にも言うなと二人から断わられた意味が分った。