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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

「あれはミッション・スクールってことを知らなかったからです。何うも驚いた」

と野崎君はその頃から頓狂な男だった。

「君は耶蘇がそんなに嫌いですか?」

「さあ、僕は何うでも宜いんですが、僕の家は商売柄耶蘇が敵です」

「遊廓ですか?」

と私はつい思い浮んだまゝを訊いた。

「失敬な」

「何です? それじゃ」

「酒屋ですよ」

「成程」

「耶蘇は禁酒会ですからね」

「然うにも限りませんよ」

「いや、大敵です。迚も両立しない」

「君は酒が好きですか?」

「嫌いです。その代り煙草が好きです。この通り」

と野崎君は懐ろから取り出した。この頃は天狗煙草というのだった。

「煙草も学園じゃいけないんですよ」

「知っています」

「やめたら宜いでしょう」

「内証でやるさ。実は先刻便所で一本すってやった」

「野崎君」

「何です?」

「君のようなのは静岡県人の恥さらしですよ」

「何故?」

「そんな卑怯なことがあるものですか」

「いると決心がつけば無論やめますよ」

「未だグラ/\しているんですね。静岡県人は意志が弱いから嫌いです」

「河原君、君は憤ったのかい?」

「いや、僕は耶蘇だ。憤らない」

「折角君と友達になったんだから、矢っ張り一緒に勉強しようかな?」