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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
と不得要領に終った。
翌朝、私は目が覚めると直に五階の塔を思い浮べた。富士山が見えると聞いていたので、早速上って行った。成程、能く見える。箱根と覚しい山を踏まえて、チョコンと立っていた。故郷の山だ。無論懐しい。しかし私は至って理性的だった。それは昨日の今日だ。未だホームシックは感じない。
「案外小さいな」
とさえ思った。
「河原君」
とそこへ野崎君が上って来た。
「やあ、起きたのかい?」
「もう決心がついたよ」
「何うついた?」
「こゝでやる」
「それは宜かった」
と私は喜んだ。
「もう一つ決心したよ」
「何だい?」
「耶蘇には決してならない」
「ふうむ」
「感心したかい?」
「当り前さ。耶蘇だから来るって人が多いのに、君は変っている」
「ところでもう一つあるんだ」
「何だい?」
「耶蘇と喧嘩をして負けるのは口惜しいから、煙草をやめる。見給え。この通りだ」
と野崎君は煙草の袋を捩じ切った。
「好い決心だよ」
「斯ういう具合に粉々にして打っちゃってしまえば未練は残らない」
「ナカ/\豪い」
「しかしこゝに吸殻が落ちているぜ」
「成程」
「こゝにもあるよ」
「寄宿生がこゝへ来て吸うのかも知れない」