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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

と私が立ち止まって見返った時、

「馬鹿野郎やあい!」

と呼ぶ声が聞えた。

「ひどい奴等だ」

「河原と安部の馬鹿野郎やあい!」

「何だ? こん畜生!」

と私は声の方角へ二三歩進んだ。

「君、それはいけませんよ。悪に敵すること勿れです」

と安部君が制した。

「余り失敬だ」

「あの二人は心に疚しいところがあって、僕達と一緒に歩けないから逃げて行ったんです。もう構わない方が宜いです」

「あゝ、彼処へ行く。広い道へ出たんです」

と私は二人の姿を立木の間に認めた。

「沈淪に至る路は濶、その門は大なり。これより入るもの多し」

と安部君が聖句を引用した。私は早速、

「命に至る路は窄、その門は小さし。その路を得るもの少なり」

と受けた。

「ハッハヽヽ」

「ハッハヽヽ」

「あの二人は俗物ですよ」

「命の為めに何を食い何を飲まんと思い患っているんです」

「命は糧より勝ることを知りません」

「空の鳥を見よ。稼ことなく穡ことをせず、倉に蓄うることなし」

「この故に明日のことを思い患う勿れ」

「明日は明日のことを思い患え」

「一日の苦労は一日にて足れり」

と二人は基督の言葉で語り合った。お互に此方も知っているぞという見栄があった。