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なんぼく

南北

横光 利一

「人間」1921(大正10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,591 字 · 40 页

青空文庫

「うん、秋がお前、株内はここだけや云いよってさ。」

「母屋へ行け母屋へ。かまうか、俺がつれてってやろ。あいつ、ほんまに猾い奴や!」

「お前頼んでくれんか?」

「ええとも、あの餓鬼ったら、仕様のない奴や。」

「そうしてくれのう。土産も何もあらへんけど、二円五十銭持ってるのやが、どうにかならんかのう?」

「要るもんか。」

「要らんか、頼むぜ。」

「行こ行こ。」

「ちょっと待ってくれ、お霜さん、飯ないかなア、腹へって、腹へって。」

「飯か? 今頃お前、夕飯前でこれから焚くとこやがな。」

「ちょびっとでも好えがな。」

「じゃ見て来てやるわ。」

お霜は台所へ這入った。勘次は表へ出て北の方を眺めてみたが、秋三の姿は竹藪の向うに消えていた。彼は又秋三とひと争いをしなければならぬと思った。そして、胸の中で、自分は安次を引取ることに異議を立てるのではなく、秋三の狡猾さに立腹しているのだと理窟も一度立ててみた。が、事実は秋三や母のお霜がしたように、病人の乞食を食客に置く間の様々な不愉快さと、経費とを一瞬の間に計算した。

お霜は麦粉に茶を混ぜて安次に出した。

「飯はちょっともないのやわ、こんなもんでも好けりゃ食べやいせ。