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なんがさんだい

南画三題

中谷 宇吉郎

白端溪硯「東京新聞」1956(昭和31)年6月23日<br>墨と硯と雪と「週刊サンケイ 1巻12号」サンケイ出版、1952(昭和27)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,372 字 · 11 页

青空文庫

いろいろいきさつはあったわけであるが、前に一度書いたことがあるから、省略することにしよう。

ところでこの嘉慶の名墨の色を活かすのに、一番適当した画題は、雪の結晶である。雪の結晶を顕微鏡で覗いた時に、第一に驚くのは、その色の美しさである。雪は氷の結晶であるからもちろん色はないわけであるが、月光に映えた水晶のように、結晶の細かい構造で反射屈折した光は、薄水色に輝いて、一寸たとえようのない美しさを示してくれるのである。あの雪の結晶の美しさは、油絵では一寸出せないので、中国古代の名墨の墨色で表現するのが、一番いいように思われる。それでこの墨を使って盛んに雪の絵を描いてみた。いいことには、古来東洋には幾万人の画家がいたわけであるが、雪の結晶を南画で描いた人は恐らく一人もないであろう。それでこれは比較を絶した絵であることには、まちがいがない。

自分だけでいい気持になって、描いているうちに、だんだん同調者が出て来た。そして賛をしてくれる人が現われて来た。そうなると話はうまいもので、賛の方が欲しいらしく、私の絵にも、大分貰い手が出て来た。それで家にはほとんど無いが、この頃は、大分世間に流布して来たようである。