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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

「誰だ、誰だ」

老人は続けざまに、悲鳴に似た叫び声を立てた。

闇の中に闇があって、その真黒な人影みたいなものが、徐々にこちらへ歩いて来る気配だ。

流石の斎藤老人も、あまりの不気味さに、ドアをしめて、逃げ出そうと身構えた時、突然、闇の中から、ほがらかな笑い声が響いて来た。

と同時に、申し合せた様に、部屋の中が明るくなる。見えぬ手が、再びスイッチをひねったのだ。

あかあかと電燈の光りに照らし出された怪物の正体。

「ア、あなたは!」

老人はあっけにとられて叫んだ。

そこに立っていたのは、さっきあれ程探したのに、影も見せなかった明智小五郎であった。

「これは不思議だ。あなたは、一体全体、どこに隠れてお出でなすったのだ」

斎藤老人は、ジロジロと、明智を見上げ見下して尋ねた。

「どこにも、隠れてなんかいませんよ。僕はさっきから、ここにいたのです」

明智はニコニコして、答えた。

だが、それは嘘に極まっている。いくら老人だからといって、人間一人見落す筈はない、それに、さっき書生も、この部屋を一度探しに来たのだ。

窓は凡て密閉してある。明智がその外に身を隠していたとは考えられぬ。