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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
二十五歳の恋人達は、子供の様に無邪気に、あらゆる思慮を忘れて、桃色の靄と、むせ返る甘い薫の世界へ引き込まれて行った。
何を話し合ったのか、どれ程の時がたったのか、何も彼も、彼等には分らなかった。
ふと気がつくと、次の間に女中がかしこまって、声をかけていた。
二人は夢から醒めた様に、極まり悪く居住いを直した。
「何か用かい」
三谷は怒った声で尋ねた。
「アノ、岡田さんが、これをお二方にお渡し申し上げるようにと、御いい残しでございました」
女中が差出したのは、四角な紙包みだ。
「何だろう。……写真の様だな」
三谷はやや薄気味悪く、それを開いたが、中の物を暫く眺めている内に、当の三谷よりも、横から覗き込んでいた倭文子が、余りの恐ろしさに、一種異様の叫声を立てて、その場を飛びしさった。
それは二枚の写真であった。一枚は男、一枚は女。だが当り前の写真ではない。倭文子が飛びしさったのも尤もだ。これよりむごたらしく殺しようはないと思われる程、残酷に斬りさいなまれた、死人の写真なのだ。
犯罪学の書物の挿絵を見慣れた人には、さして珍らしい姿ではないが、女の倭文子には、絵空事でない写真であるだけに、本当の惨死体を見たと同じ、胸の悪くなる様な怖さであった。