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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
非常な高さと、非常な広さが、いい知れぬ恐怖を誘う。
その鉄骨の頂上に近い部分に、一人の洋装婦人が、豆粒の様に、ぶら下っているのだ。
洋服の色合から、さっき賊が小脇に抱えて逃げた桜姫の人形であることは一目で分った。桜姫は即ち文代さんだ。賊は意識を失った文代さんを、途方もない高所へ運んで、戦慄すべき軽業を演じさせたのだ。
併し、なぜそんな馬鹿馬鹿しいことを思いついたのか。あの高所へ人間一人運び上げるのは並大抵の苦労ではない。なぜそんな無駄骨を折らねばならなかったか。
丸天井の頂上には、ポッカリと丸い孔があいていて、その外に、別の小さな屋根が塔の格好でとりつけてある。つまり一種の通風孔なのだ。
賊はその通風孔から、屋根の上へ、文代さんを連れ出そうとしたのかも知れない。連れ出して、どうしようというのか、それから先の見当はつかぬけれど、文代さんがあんな所にブラ下っている所を見ると、そうとしか考えられぬ。
賊が態々運び出そうとしたからには、文代さんは、殺されたのではない。一時気を失っているのだ。そうでなくて、どんな美しい娘にもせよ、死骸などに用のある筈はないのだから。