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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
館内から、長い梯子が持出され、二人の争っている、棚の様な個所へかけられた。
二三人の仕事師が、先を争って、梯子を駆け上り、まだとっ組み合っている二人を、とり押えた。
一人はいうまでもなく、さっきの勇敢な若者、今一人は賊の筈だ。ところが、奇妙なことに、その賊の方が、
「馬鹿野郎、馬鹿野郎」
と、さも腹立たしげに、若者を罵っているではないか。
若者の方はと見ると、さっきの威勢はどこへやら、グッタリとなって、相手の罵るに任せている。
「オイ、どうしたんだ」
背中をこづいて、尋ねて見ると、若者は、がっかりした調子で、
「その人は、賊じゃないんだ。味方の明智さんだ。それが今やっと分ったのだ」
とうめいた。
成程、そういわれて見れば、さっきまで、館内で、追手の先頭に立っていた、明智探偵に相違ない。
「賊はまだ屋根の上にいる筈だ、早く捕らえてくれ給え」
明智は顔をしかめながら、指図した。
「この男が、飛んだ思い違いをしたものだから、僕の計画が滅茶滅茶になってしまった」
明智が馬鹿野郎、馬鹿野郎と罵ったのも無理ではない。折角、彼が単身、敵の背後を襲って、屋根の上で賊を引捕えようとした計画が、すっかり齟齬してしまったのだ。