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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
引上げられたのは何者であったか。あの恐ろしい唇のない怪物か。イヤ、そうではない。だが、その顔を一目見るや、恒川警部が、頓狂な叫び声を立てた。
「オヤ、これは例の畑柳家の知合の三谷という人物だぜ。僕は二三度会ってよく知っている」
それでは、あの快速艇の主は、事件に関係浅からぬ三谷青年であったのか。彼なれば、あの様に無我夢中で、賊を追駆けたのも、無理ではない。
三谷は、さして水を飲んでいないらしく、一同の介抱に、間もなく正気を取戻した。
「アア、恒川さんでしたか。どうも有難う。もう大丈夫です。あいつは? あいつはどうしましたか」
先ず尋ねたのは、賊のことだ。
「今の爆発でやられたかも知れません。これから探すところです。だが、三谷さん、君はどうして、僕達を出し抜いて、あんなことをしたのです。僕達のランチを待合わせてくれたら、こんなことにはならなかったのですよ」
三谷青年が、存外しっかりしているので、恒川氏は、つい相手を叱る様な口調になった。
「申訳ありません。あいつには、これまで度々、今ちょっとの所で、うまく逃げられていますので、今度こそはと、ついあせったのです」