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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「その時、あの空家の戸棚の中で、たべあましのビスケットとチーズを発見したのです。ビスケットの上にチーズを重ねて、かじったもので、それにハッキリ歯型が残っていたのを、ソッと持帰って、石膏の型にこしらえたのです」
「しかし、それが賊の歯型というのは……」
「あの家は、二ヶ月以上も空家になっていたのですから、他にそんな所へ食べ物を持込むものはありません。倭文子さんも茂君も、賊にビスケットとチーズを、度々勧められたけれど、幽閉されている間、何ものも口にしなかったといっています。その言葉によっても、賊のたべあましであることは確かです。それが彼等の食料だったのです」
あの時、明智はその発見について、同行者の三谷にさえ何事もいわなかった。ただ、妙ななぞみたいな独言をしたばかりだ。なぜ三谷に隠さなければならなかったのか、明智が無意味に隠し立てをする筈はない。何かそこに特別の事情があったのではなかろうか。
「すると、つまりこれは、賊かその相棒か、どちらかの歯型ですね。あの時空家には、二人の奴がいた筈だから」
恒川警部は、やっと明智の説明を理解した。
「そうです。しかし、それが岡田道彦の歯型とも、品川湾で溺れた小説家の歯型とも一致しないとすれば、奴等はまだどこかに生残っているのです。