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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
しかし、それがどうかしたのですか」
と意外な答えだ。
恒川警部は、ドキンとした。アア、これが倭文子さんの歯型なのだ。この歯型と、賊の歯型とくらべて見て、万一同じであったら、どういう事になるのだ。と思うと、何ともいえぬ戦慄が、腹の底から、込み上げて来た。
「アア、僕はこうしてはいられません。少しも当はないけれど、倭文子さんを探して来ます。じっとしているよりましです」
三谷は、そんなことを独言のように口走ったかと思うと、ヒョロヒョロと立上って、挨拶もせず、客を残したまま、どこかへ出て行ってしまった。
「可哀相に、少しのぼせ上っているようだね」
恒川氏は、小林少年を顧みて、苦笑した。
「あの歯型のついた羊かん、持って帰って、比べてみましょうか」
少年は歯型の発見に、夢中になっている。
「それがいい、君これを持って、一度帰り給え。そして、明智君に事情を話して下さい。僕はまだ少し調べたいこともあるから、ここに残っている。用事があったら電話をかけてくれ給え」
恒川氏は、小林の熱心につり込まれて、つい歯型を比べさせて見る気になった。
少年が立去ると、警部は二階の書斎に上って、兇行のあとを、入念に調べて見たけれど、別段の発見もなかった。