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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「茂ちゃん、母さまはね……」
倭文子は、いとし子を抱きしめて、泣きじゃくりながらささやいた。
「飛んでもないことをしてしまったのよ。茂ちゃん、お前はね、可哀相に、可哀相に、もうこれっきり、母さまとお別れなのよ。一人ぼっちで暮らさなければならないのよ」
「母さま、行っちゃいや。どこへいくの? エ、なぜ泣くの?」
六歳の少年には、事の次第がよく呑みこめぬのも無理ではない。
アア、この子とも永久のお別れだ。今にも、今にも、警察の人達が来たならば、この場から引立てられるにきまっている。そして、絞首台はのがれられぬ運命だ。でも、これっ切り、我子と別れてしまうなんて、そんなむごたらしいことが、本当に起るのだろうか。別れるのはいやだ。子供も、恋人も、何もかもあとに残して、一人ぼっちで死んで行くのは耐らない。
「斎藤のおじちゃん、どうしたの? 死んでしまったの?」
茂少年の無邪気な質問が、この小さなものにさえ、責められている様で、ゾッとする程恐ろしい。
「ねエ、どうしたの? 母さまが殺したの?」
倭文子はギョッとして、思わず我子の顔を見つめた。アア、何ということだ。このいたいけな少年が、空恐ろしい直覚で、もうそれを感づいていようとは。