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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
人夫の鍬の一振りごとに、土が掘起され、その下から、粗末な棺桶のふたが現れて来た。桶は湿気のために、黒ずんでいたけれど、元の形を保っていた。
人夫はなれたもので、何の躊躇もなく、そのふたをこじあけた。途端に鼻をつく異臭、腐りただれて、半とけて流れた、恐ろしい死骸。二目と見られぬ有様だ。
人夫達はその棺桶を、ソッと地上へ抜き出して、まぶしい白日の下にさらした。あまりの気味悪さに人々は思わず顔をそむけたが、役目柄、逃げ出す訳には行かぬ。
「歯型を、歯型を」
予審判事S氏の言葉に、明智は用意の歯型(歯医者から手に入れた、生前の岡田道彦のものだ)を取出し、一人の警官に手渡した。
「死骸の口を開くのだ」
警官は、怒った様な声で、人夫に命じた。
だが、口を開くまでもない。死骸の顔には、もうほとんど肉というものはなく、長い歯並が、むき出しになっているのだ。
「ヘエ。こうですか」
人夫は、勇敢にも、その骸骨の、食いしばった歯に手をかけて、ガタンと口を開いた。
警官はしゃがみこんで、渋面を作りながら、石膏の歯型を、死骸の歯に合せて見た。
立会いの人々も、頭を集めて、近々と骸骨の口をのぞき込んだ。