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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

だが、窓の外の蛇腹にも、下の庭にも、人の影はない。

「ハハハハハハ、恒川さん、締切ったガラス窓の外から、ガラスもわらず、短剣を投げ込むなんて、いくら手品師だって、出来ない相談ですよ」

明智の笑い声に、恒川氏は苦笑して窓を離れた。そして、今度は、短剣をあらためる積りで、ワラ人形に近づいたが、二三歩あるいたかと思うと、彼はハッとして立止まらないではいられなかった。

夢を見ているのではないかしら、それともさっきのが幻覚であったのか。

不思議、不思議、近づいて見ると、ワラ人形の胸には、何もないのだ。短剣は消え失せてしまったのだ。

恒川氏は、キョロキョロとあたりを見廻した。どこにも短剣らしいものは見当らぬ。

ふと目につくのは、立並ぶ怪しげな仏像共だ。

彼はそれに近寄って、一つ一つ、入念になで廻して見た。だが、仏像には何の仕掛けもないらしい。まさか、仏像が腕を振って、短剣を投げつけた訳ではあるまい。手も足も動かぬ木彫りか、でなければ、結跏趺坐の金仏だ。

では、やっぱり幻覚であったのか。部屋が薄暗い為に、ただワラ人形の倒れたのを、疑心暗鬼で、短剣が刺さっている様に、見誤ったのであろうか。