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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「兇器は? 短剣は?」
恒川氏が、思わず口に出していった。
「まだ、お分りになりませんか。今に種明かしをしますよ。……ところで斎藤老人や書生達が、小川正一の死体を発見した時の状態は、丁度この通りでした。小川は、こうして胸から血を流して倒れていたのです。兇器は無論、どこにも見当りませんでした」
明智は説明を続ける。
「犯人も姿を見せず、兇器さえ消え失せてしまいました。しかし、小川正一は胸から血を流して倒れていた。この人形も、同じ胸をやられて、倒れています。わらが切れ、赤インキのゴムが破れたのが、何よりの証拠です。人形は殺されたのです。だが、誰に、どうして?……現に目撃されたあなた方にさえ、ハッキリは分らないのです。当時、斎藤老人達があの様に不思議がったのも、無理ではありません」
そういう内にも、部屋は目に見えて暗くなって行った。わら人形のわらの一本一本が、もう見分けられぬ程だ。黒っぽい仏像達は、ジリジリとあとしざりをして、壁の中へ溶け込んで行くかと見えた。
「不思議だ。何だか夢を見ている様な気がします」
三谷が、なぜか、異様に大きな声でいった。明智も恒川氏も、その声があまり高かったので、びっくりして三谷の顔を眺めたが、どんな表情をしているのか、夕やみが塗り隠して、ハッキリは見えなかった。