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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

倭文子の膝に肘をついて、長椅子の上に足をなげ出している、可愛らしい洋装の少年は、畑柳氏の忘れ形見、倭文子の実子の茂ちゃんだ。

くすんだ皮の長椅子の凭れをバックにして、倭文子の白い顔、派手なクッション、茂少年の林檎の様に赤い頬。「母と子」と題する、美しい絵の様に眺められた。

三谷は二人から目を上げて、彼等の頭の上の壁に懸っている、引伸ばし写真の額を見た。何となく人相の悪い四十恰好の男だ。

「死んだ畑柳ですの。こんなもの懸けて置いて、いけませんでしたわね」

倭文子は神妙に詫言をした。

「それから、茂ちゃんも。この子も畑柳と同じ様に、あなたには、お目ざわりでしょうか」

「イイエ、決して。こんな可愛い茂ちゃんを誰が嫌うものですか。それにあなたに生写しなんだもの。

茂ちゃんの方でも、小父さん好きでしょう。ね、そうでしょう」

そういって、三谷が少年の手を取ると、茂はニッコリ笑って、肯いて見せた。

窓の外には、ここの庭にも紅葉は色づいていたし、常緑木の茂みに、うらうらと暖かい日ざしが照りはえて、ほの白く、うら悲しく、夢見心地の一ときであった。

倭文子は、茂少年の頬を愛撫しながら、突然、彼女の身の上話を始めたが、周囲の情景がそんな風であったから、それさえも、何かしら、妖しき物語めいて聞こえたのである。