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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
彼はただ死刑がこわさに、盗みためた宝石欲さに夢中になっていて、つい可愛い妻子のことを勘定に入れていなかった。それが、いざ我家の門前まで来て見ると、愛していた妻だけに、可愛い子供だけに、さすがに変り果てた、恐ろしい我が姿がはずかしくなった。牢破りの大罪を打開ける勇気がなかった。……
脱獄以来二ヶ月の間、彼は深川のある同類の家に身を隠していました。――その同類の名前もちゃんとわかっています――。そして夜にまぎれて、我邸内に忍び込み、妻子の姿を垣間見て、また宝石の隠し場所をあらためて、僅に自ら慰めていたのです。倭文子さんが、鹽原の温泉へ行けば、そのあとを追って、同じ宿屋に泊り込み、湯殿の窓から我が妻の入浴姿をのぞくというような、みじめな苦労さえしているのです。……
彼が盗みためた宝石は、さっきのお芝居でごらんなすった通り、書斎の仏像の中に隠してあったのです。彼は、そこへ人の近づくのを防ぐために、色々工夫をこらしました。不気味な仏像群もそれです。宝石を隠した金仏の目にからくりを仕掛けて、人がその前に立つと、ひとりでに目を見開くようにしておいたのもそれです。