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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「エエ、八年も前の昔話ですもの。それに、あたしまだほんの子供でしたから」
三谷は黙って立上ると、窓の所へ歩いて行って外を眺めた。
「で、つまり、これがあなたの愛想づかしなんですか」
彼は外を眺めたまま、無表情な口調でいった。
「マア」倭文子はびっくりして、
「どうして、そんなことおっしゃいますの。ただ、あたし、あなたにあたしの本当の境遇を隠しているのが、苦しくなったからですわ。子供まである、獄死をした罪人の妻が、あなたとこうしているのが、恐ろしくなったからですわ」
「そういうことで、今更、僕達が離れられると思っているのですか」
倭文子にして見れば、離れられぬからこそ、身の上を打あけたともいえるのだ。それが分らぬ相手ではない筈だ。
彼女も立って行って、三谷と並んで、窓の外を見た。少し赤みがかった日光が、立木の影を長々と投げている、美しい芝生に、いつの間にか、部屋を抜け出して行った茂少年が、彼の身体の二倍程もある、愛犬のシグマと、たわむれているのが見えた。
「子供と同じ様に、あなたにも罪はないのです。僕はそういうことで、あなたに対する心持が、変りはしない。それよりも、僕にはあなたの富が恐ろしい。