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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
花氷!
如何にも花氷には相違なかった。しかし、世にありふれた、草花の花氷ではない。そこにはいたましい断末魔の苦悶をそのままに、人間界の花が、美しい倭文子の一糸まとわぬ裸体姿が無慙にもとじこめられていたのだ。
その側には、やっぱりはだかの茂少年が、苦しさのあまり倭文子の腰にしがみついた形で、凍っていた。
アア、人間の、しかも世にも美しい女性と少年の、裸体像をとじこめた花氷。かつて此世に、かくも残虐な、同時に、かくも艶麗な、殺人方法を案出したものが、一人でもあっただろうか。
明智は、さしたる驚きも示さなかったが、恒川警部は、この人体花氷を見ると、本当に肝を消してしまった。
事件全体が、彼の従来の経験からは、ひどく飛び離れた、魔術の連続のようなものであったが、それ故に、彼は事毎に驚きを倍加して来たのであるが、この悪魔の最後の演技に至っては驚き以上のものであった。
警部は「殺人芸術論」というようなものの存在を、少しも知らなかったけれど、氷に包まれた、被害者の姿の、あまりの美しさに、不思議な困惑を感じた。
彼は、いつも、血みどろの死骸や、むごたらしい傷口や、いまわしい死臭や、ゾッとする様な死相ばかり見ていた。